人身傷害保険の入り方
人身傷害保険の入り方、使用上の注意点等を解説します。
人身傷害保険とはどんな保険かを解説
人身傷害保険の仕組み、損保各社の対応状況、加入率などを解説します。
人身傷害保険とは
自動車保険の基本的な仕組みは業界共通で、おおよそ下図のようになっています。
こちら(加入している人=記名被保険者、その家族、同乗者)の心身の損害を埋め合わせるのが、人身傷害保険の役割です。
幅広い損害をカバーする
人身傷害保険は、ケガ・後遺障害・死亡による損害を幅広く補償してくれます。
ケガによる損害 |
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後遺障害による損害 |
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死亡による損害 |
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人身傷害保険の加入率
人身傷害保険の加入率は高いです。もっとも、最近はこの保険を自動セットにする商品が増えているので、その影響があるかもしれません。
加入率
損害保険料率算出機構「自動車保険の概況」によると、2020年度の人身傷害保険の加入率(自動車保険加入者に占める割合)は次のとおりです。
92.5%
自動セットしていない自動車保険
最近は、人身傷害保険を自動セットにしている自動車保険が多数派です。
このページを作成している時点で、人身傷害保険を外せるのは、次の商品です。
- アクサダイレクト(搭乗者傷害保険といずれか必須)
- イーデザイン損保(&eではない従来商品)
- SBI損保
- セコム損保(搭乗者傷害保険といずれか必須)
- 日新火災
- 三井ダイレクト損保
実際にはあまり使われていない
損害保険料率算出機構「自動車保険の概況」によると、2020年度の各保険の支払い件数は以下のとおりでした。
対人賠償保険 | 310,352件 |
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対物賠償保険 | 1,762,322件 |
人身傷害保険 | 259,710件 |
車両保険 | 1,848,356件 |
上で説明したように人身傷害保険の加入率は高いです。車両保険よりはるかに高く、対人賠償保険・対物賠償保険に近いレベルです。
それを考えると、人身傷害保険の支払い件数は飛び抜けて少ないです。
人身傷害保険に入っていてよかったと思えそうなケース【その①】
人身傷害保険の大きなメリットの1つが、対人賠償保険(自賠責保険を含む)を補完する働きです。
対人賠償保険との連携
車対車の事故でこちらがケガをして、その治療に総額100万円かかったとします。また、事故に対するこちらの責任割合は40%だったとします。
そのとき、こちらの治療費100万円の分担は下のようになります。
相手からの賠償額 | 60万円 |
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こちらの負担額 | 40万円 |
人身傷害保険に入っていると、こちらの負担分(40%分の40万円)を補償してくれます。もし入っていないと、40万円をどこかから調達しなければならなくなります。
相手もケガをした場合、その治療費の40%はこちらが負担しなければなりません。
ただし、負担分の全額がこちらの保険から相手に支払われます。
事故の7割近くが車対車
損害保険料率算出機構「自動車保険の概況」には、人身傷害保険を使った事故の内訳も掲載されています。2020年度の実績は次のとおりでした。
人身傷害保険を使った事故の66.9%が「車対車」の事故(=対人賠償保険・自賠責保険を使う事故)でした。
対人賠償保険と連携させて人身傷害保険を使うケースは多いようです。
人身傷害保険に入っていてよかったと思えそうなケース【その②】
人の損害を補償する保険の対象者は、下表のようになっています。
保険 | 同乗者の補償 |
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自賠責保険 | 家族でも他人でも補償される。 |
対人賠償保険 | 他人は補償されるが、家族は対象外。 |
人身傷害保険 | 家族でも他人でも補償される。 |
同乗者が他人のときは、対人賠償保険で手厚く補償できます。
同乗者が家族のときは、人身傷害保険に入っていないと手薄になります。
同乗している家族がケガをしたとき、自賠責保険(強制保険)から、最大で120万円の保険金が出ます(後遺障害なら最大4,000万円)。
人身傷害保険の補償内容の決め方
人身傷害保険に入るなら、少なくとも次の2点を決めなければなりません。
- 補償される事故の範囲
- 保険金額(=上限額)
補償される事故の範囲
ほとんどの自動車保険で、2タイプの中から選ぶようになっています。
車内のみ補償型 | 車内・外補償型 |
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自動車保険は、契約車(保険申込のときにナンバー等を申告した車)のための保険ですから、「車内のみ補償型」が検討の出発点になります。
車の使い方や地元の交通事情などから必要と思われるときは、「車内・外補償型」をご検討ください。こちらの方が、少し高くなります。
保険金額(=上限額)
人身傷害保険から出る保険金の金額は、実際の損害額です。ただし、加入・更新のときに、上限額を設定します。
3,000万円以下が主流
同じ人のための保険である対人賠償保険の保険金額は、原則として「無制限」です。
一方、人身傷害保険の保険金額は、損害保険料率算出機構「自動車保険の概況」によると、約半数が3,000万円以下、約84%が5,000万円以下というのが実情です。
無制限でなくても良い理由
対人賠償保険は、他人に損害賠償するための保険なので、裁判所の考え方に即しています。
人の損害を算定するときに、裁判などでは「逸失利益」を含めて算出します。「逸失利益」は将来得られたであろう収入なので、たとえば若い人や高額所得者の損害額は大きくなりやすいです。
一方、人身傷害保険のような、自分やその家族のための保険では、「逸失利益」ではなく、「これからの治療や生活のためにいくら必要か?」という角度から保険金額を見積もりします。このほうが金額は小さくなりやすいです。
人身傷害保険の保険金額を検討するときに、「逸失利益」を含めてはいけない、という意味ではありません。むしろ損害保険会社は、「逸失利益」を含めることを推奨しています。
ただ、現実には、「逸失利益」を含めない方が多数派のようです。
人身傷害保険の使用上の注意点
こちらの損害が大きいときは、念のために弁護士等に相談しましょう。
なぜなら、こちらが保険金を受け取る立場になったとき、損害保険会社は100%味方とは限らないからです。
次のことを念頭に置いて、損害保険会社の担当者と交渉してください。
- 保険会社は、相手が誰であれ、保険金の支払いを少なくしたい。
- もともと、保険会社の算定基準は、裁判所の基準より低いことが多い。
- 人身傷害保険は歴史が浅く、判例の蓄積が十分ではない(保険会社の“独自基準”が横行しやすい)。
もちろん保険契約の約款どおりに保険金は支払われますが、「どこまでを治療の費用に含めるか?」「逸失利益の見積もりのやり方は?」「精神的損害をお金に置き換えるといくらになる?」など、グレーゾーンがあります。金額の相場くらいは知っていないと交渉になりません。
損害が大きくなったときは、念のために弁護士等に相談しましょう。
ほぼすべての都道府県の弁護士会が、無料相談に応じています。
また、交通事故を得意とする弁護士の多くも、無料相談をおこなっています。